「僕と彼と娘のいる場所」 (2007年公演)

作 ・ 演出 : 鄭 義信 / 出演 : 須藤理彩   和田聰宏  石丸謙二郎

  【 あらすじ 】

 地方都市。夏の終わり。
埃とカビと便所からのアンモニア臭が混じった匂いの漂う古い映画館 「新生劇場」が、繁華街のはずれに建っている。劇場主 誠二(石丸謙二郎)のもとには、男勝りの娘 夏海(須藤理彩)が、亭主 悟(和田聰宏)の浮気に愛想を尽かせて戻ってきていた。夏海は地方の平穏な流れの中で、しばし心身を休めるつもりだった・・・・・・が、夏海にそんな時間は訪れない。悟が夏海を追いかけて、遠方からやってきたのだった。悟は反省の弁を繰り返すも、夏海は取り合おうとしない。そんな夏海の態度とは裏腹に、誠二は 「うち、泊まってくかい?」 「今夜、一杯いきませんか」等々、何故か娘婿の悟に優しく接する。父と夫の態度に逆なでされた夏海は、一人声を上げて父と夫に立ち向かうも、その甲斐むなしく、悟は新生劇場に住み着くのだが・・・・・・。

 父と娘が「彼」と呼ぶ存在。そこには過去の家族の辛い痛みと悲しい記憶が隠されていた。胸の奥にくすぶって消えない痛みを抱えたまま、日常を生き続けなければならない人々の、哀しくも愛おしい人生。  


  【 解 説 】

 毎日、新聞を開くと、僕みたいな気の弱い劇作家には思いもつかない凶悪犯罪や殺人、事故、災害……等々、おびただしい数の事件があふれている。だけど、「うわっ、こりゃ、ひどい」と、目をそむけたくなるような事件も、次の日、それよりもっと悲惨な事件が起こり、昨日の事件はすっかり忘れてしまうのだ。時々、ふっと頭の片隅に消えていたその事件を思い出し、(そういえば、あれはどないなったんやろなぁ…)と、考えてみたりもするが、すぐにまた記憶の海に沈んでいってしまう。 事件の「その後」について……当事者、あるいは当事者の家族たちの「その後」について、新聞やニュースはつぶさに物語ってくれるわけではない。僕たちはどんどん忘れていき、どんどん麻痺していく。「その後」のことなどはどうでもよくなってしまう。当事者にとっては一大事であっても、世間にとっては、あっという間に砂漠の砂の一粒になってしまうのだ。
だからこそ、僕は忘れることができずにいるひとたちを……痛みを抱えて生きつづけなくてはならなくなってしまったそのひとたちを……そのひとたちの「その後」を……記憶しようと思う……。

  作・演出  鄭 義信


  
 【 スタッフ 】

  美術 :  池田ともゆき

  照明 :  増田隆芳

  音響 :  藤田赤目

  衣装 :  木場絵理香

  照明オペレーター :
   石井宏之  大竹真由美  金子輝美子

  音響オペレーター :  水谷雄治

  演出助手 :  根本大介

  演出部 :
   奥村直義  松浦孝行  長谷川千絵  比嘉一嗣

  舞台監督 :  松本仁志

  宣伝美術 :  立川 明

  宣伝写真 :  塩谷安弘

  パンフレットデザイン :  曽根裕樹

  制作担当 :  坂本龍生

  制作補 :  大迫久美子

  プロデューサー :  岡田 潔

  企画制作 :  トム・プロジェクト
  【 協 力 】

  アミューズ

  青年座映画放送

  ディグ・カンパニー


  ブライト

  高津映画装飾

  夢 工 房

  久我山工房

  平和美術

  マ イ ド

  高橋家具

  江田佳代

  福井健二
平成19年度 文化庁芸術創造活動 重点支援事業